苦くて甘い恋愛中毒
「ここでいいの、家?」
サイドブレーキを引きながら、彼が尋ねる。
肯定の意味を込めて頷き、シートベルトを外した。
「わざわざ、ありがとうございました」
「こちらこそ。飯、サンキューな」
もう一度、頭を下げて、ドアに手をかけようとした、そのとき。
後頭部に手が回され、強引に引き寄せられた。
驚いて声を上げる間もなく、次の瞬間にはもう彼の綺麗な顔が近すぎて見えなかった。
あ、キス、されてるのか。
案外冷静に受け止めている自分に驚き、ようやく目を閉じて彼のキスに応えようとしたが、すでに唇は離れてしまっていた。
「おやすみ」
いつ、車を降りたのか。
どうやって帰ったのか。
すべて頭から抜け落ちてしまったけど、残ったのは、彼の最後の甘い声と苦い煙草の味だった。