苦くて甘い恋愛中毒
はじまりの日
朋佳によって、あの〝可愛らしい〟メールが送られてから、早くも10日が過ぎていた。
初めの数日は、返信が来るかもしれないなんて期待と不安を抱いていたものだったけど、もののみごとにその想いは打ち砕かれ、一度も彼の名が表示されることはなかった。
そんなこんなで半ばあきらめかけていた頃、バイブ音が鳴り響いた。
画面を見た瞬間、驚愕したのは言うまでもない。
だって、そこには見慣れたゴシック体で【仲山 要】と表示されていたのだから。
メールを確認するのにこんな緊張したのは、大学の合格発表以来だろう。
いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。
受信Boxを開くと、やっぱり要さんからだった。
見間違いじゃなかったんだ、と心の中でつぶやきながらメールを開く。
『メシ作りにきて』
は?
何度読み返しても愛想のかけらもない文章が液晶画面に映し出されていた。
丸ひとつないこれが、もはや文章と言えるのかすら疑問だ。
それに、脈絡もなにもあったもんじゃないし、状況がまったくと言っていいほど理解できない。
悩んだ末電話することにしたが、いくら待ってもその電話の主が出る気配はなかった。
あきらめて電話を切ろうとしたその瞬間。
「――菜穂?」
「要さん? 何ですか、あのメール」
「そのまんまだけど。今、出張から帰ってきて立て込んでてさ。用それだけ? もう切っていい?」
何が何だかさっぱりなのは変わらないけど、とにかく言えることは、とりあえず私は今から彼の家に行って、出張から帰ってくる彼のために夕食を作らなければならないということだ。
電話した意味なかったし、と文句を言いつつも、いつもの何倍も化粧と服装に気を使って彼の家に向かう私の表情は、誰が見たって緩んでいたと思う。