苦くて甘い恋愛中毒
お風呂も入れて、スーツケースも片付けて、ついでに食事の後片付けまで終わらせて。
「じゃあ、帰るから」
相手の反応を待たずに扉に手をかけた。
要の言葉も態度もいつも素っ気ないけど、きっと私だって大差ない。
次にいつ会えるかも分からない。
向こうから連絡がなければもう会えないのかもしれない。
この部屋から出ていくときは、いつもそんな不安に押し潰されそうになる。
そのことが悟られないよう精一杯強がるのだ。
―――!
帰ろうとした私の腕を掴む、大きな手。
「何勝手に帰ろうとしてんの。いいって言った覚えないんだけど」
そう言いながら、もう次の瞬間には、私の唇を奪っていた。
言い訳はいくらでもあった。
脳内で理性と本能が格闘している。
疲れてクタクタで、今すぐにでも寝たいのに。
今日も明日も平日で、朝から仕事があるのに。
取材で歩き回って、大量のデスクワークに追われるだろう。ただでさえハードスケジュールなのに、このまま流されてしまったら、寝不足で仕事にならないに決まっている。
脳内で危険信号がチカチカと光り続けるその間も、間髪も入れずに私に深いキスを落とし続け、力の入らなくなった体からGUCCIのバッグがずり落ち、中身が散らばった。
「んっ……かな、め……っ」
くちゅ、という唇が吸い付く音と、吐息とともに嫌でも出てくる私の甘い女の声。
拒絶の言葉さえ、発せさせてもらえないらしい。
ようやく唇が離されたと思うと、そのきれいな顔でじっと私を見つめる。
結果は、一目瞭然。
アダムとイヴの時代から、人間はいつだって本能には勝てない。
今度は自分から首に腕を回しキスをする私に、要は静かに笑ってさらに深く舌を絡ませた。