苦くて甘い恋愛中毒
「褒めても食後のコーヒーくらいしか出しませんよ? オプションで片付けも付けましょうか?」
ほんの冗談のつもりだったのに。
要さんが困ったふうに『本当にそうしてもらいたい』なんて、言うから。
こんなことを言う羽目になるんだ。
「……どうせついでですし、やりましょうか? お風呂でもゆっくり入ってきたら?」
「え、まじでやってくれんの?」
「こんなの見てられないですから。要さんがよかったら、ですけどね」
そう言うと、要さんはふっと笑って「じゃあ、頼むな」とカレーを食べ終え、バスルームへ向かって行った。
さて、いったいどこから手をつければいいのか。
これでもかってくらい、部屋には物が散乱している。
まずはスーツケースからだと思ったが、ざっと見ただけでも4つはある。
普通スーツケースなんて、ひとりひとつあれば十分足りるようなものなんじゃないの?
彼のことだから、片付けるのが面倒になってどんどん買い足していったんだろう。
その様子が目に浮かんでおかしくなり、思わず笑ってしまった。
なんか、少し要さんのことを知れたみたいでうれしいかも。
(って私はどこの乙女だ)
部屋の至るところに放置してあった開きっぱなしスーツケースを片付けるだけでも、随分とすっきりしたように思う。
中身をひとつに纏め、残りは部屋の隅に並べておいた。
すべてが片付くころには部屋が何倍も広く見えた。
机の上にあった仕事の資料には触れないほうがいいと判断してそこは放置したが、要さんがリビングに戻ってくるころには、何とかざっくりと片付けられた。
「おー、家ってこんな広かったんだ」
「なんですか、それ。スーツケースの中身は全部あそこに入れてるんで、ちゃんと洗濯してくださいね?」
仕事だってバリバリ出来て、エリートって言われてるはずなのに。
たかだか大学生の私にこんなこと言われるなんて。
思わず笑いが込み上げると、何笑ってんの、と軽く私の頭を小突く。