苦くて甘い恋愛中毒


「菜穂はすごいな。家事はできるし。いい嫁になるだろ」

私の頭をぽんぽんと叩く。
そんな何気ない仕草にいちいち心臓が反応して、激しく暴れだす。

――こんなの、もう認めるしかないじゃない。


「菜穂の彼氏は幸せ者だな」

「え、彼氏……?」

今、何て言った?
私の耳が正常に機能しているならば、〝彼氏〟とかって単語が聞こえた気がしたんだけど。

「どうせいるんだろ? こんなうまい飯作ってくれる彼女とか最高だな」

ままごとなんて言って悪かったと、謝る彼になんて返したらいいのか分からなくて。
ずっと無言の私に気付いた要さんは、不思議そうに私の名を呼ぶ。そこでようやく私の口が開いた。


「……彼氏なんかいないですよ。あの日、要さんに助けてもらった日、私フラれちゃったから」

自嘲的に笑ってみせる。自分がとんでもなくひどい女に思えて、顔はあげられなかった。
たしかに事実だけど、そもそもふられた原因は私にもあるし、実際私は総吾との別れにたいして傷ついてもいない。
むしろ、別の男に惹かれはじめてすらいるのに。

こんな同情を誘うような言い方に、浅ましい自分に、自己嫌悪に陥った。

そんなことをしてまで、彼の気を引きたいのか。


「あほなことしたな、その男。こんないい女振るなんて」

きっと私が元カレのことを思い出して落ち込んでると思ったに違いない。

そんなんじゃないのに。
私が落ち込んでるのはそんな理由じゃないのに。

要さんに、あたり前のように彼氏がいるって思われてることが悲しいのに。

それに、彼氏がいるって思うなら、なんであの日キスしたの?


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