苦くて甘い恋愛中毒

正反対の男



新しい週の1日目。
できることならば、清々しく朝を過ごしたいと誰もが思うだろう。

でも、やっぱり今日も闘いは始まっている。
いわゆる通勤ラッシュだ。

他人と嫌でも服を押し付け合い、いろんな人の体臭やら香水やらが混じるこの感じは、いつまで経っても不快感が拭えない。

学生時代は常にバス通学だったため、入社して1ヶ月はまさに地獄としか言えない時間だった。


電車を降り、踵を鳴らしながらオフィスへと足を進めていると、背中に鈍い痛みが走った。

「おはよ。」

〝理恵の香り〟がかすかに鼻をかすめたときから存在には気づいていたけど、まさかの奇襲攻撃だった。

(理恵は未だに香水の種類を教えてくれない。よって〝理恵の香り〟としか形容しようがない)


「そうだ、今日異動あるみたいよ。社内人気ナンバーワンの優秀な人、だって」

「異動? なんで今?」

「さあ。編集長が引き抜いてきたって聞いたけど」

ふーん。
仕事の効率が上がるんならいいけど、社内人気抜群の男なんて、女子が多いうちじゃ面倒なだけなんじゃないの?

つまんないことに巻き込まれなきゃいいけど。


「面倒なことになんないように、気をつけなさいよ」

ニヤリと笑いながら言う。
またなんであたしの心の中が解るのよ。

だいたい、気をつけなきゃいけないのは理恵の方でしょーが。


< 71 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop