苦くて甘い恋愛中毒
正反対の男
新しい週の1日目。
できることならば、清々しく朝を過ごしたいと誰もが思うだろう。
でも、やっぱり今日も闘いは始まっている。
いわゆる通勤ラッシュだ。
他人と嫌でも服を押し付け合い、いろんな人の体臭やら香水やらが混じるこの感じは、いつまで経っても不快感が拭えない。
学生時代は常にバス通学だったため、入社して1ヶ月はまさに地獄としか言えない時間だった。
電車を降り、踵を鳴らしながらオフィスへと足を進めていると、背中に鈍い痛みが走った。
「おはよ。」
〝理恵の香り〟がかすかに鼻をかすめたときから存在には気づいていたけど、まさかの奇襲攻撃だった。
(理恵は未だに香水の種類を教えてくれない。よって〝理恵の香り〟としか形容しようがない)
「そうだ、今日異動あるみたいよ。社内人気ナンバーワンの優秀な人、だって」
「異動? なんで今?」
「さあ。編集長が引き抜いてきたって聞いたけど」
ふーん。
仕事の効率が上がるんならいいけど、社内人気抜群の男なんて、女子が多いうちじゃ面倒なだけなんじゃないの?
つまんないことに巻き込まれなきゃいいけど。
「面倒なことになんないように、気をつけなさいよ」
ニヤリと笑いながら言う。
またなんであたしの心の中が解るのよ。
だいたい、気をつけなきゃいけないのは理恵の方でしょーが。