苦くて甘い恋愛中毒
「仕事サボって煙草なんて感心しないな」
げ。なんで、あんたが。
「どういうことですか。私のこと知ってたんですか?」
「言ったじゃん。また会うよって」
むかつく、むかつく、むかつく。な
んだか知らないけど、無性に腹が立つ。
この浮ついた喋り方とか、掴めそうで掴めない感じとか。
要に止められて以来3年近くやめていた煙草をついに吸ってしまった、自分自身にも。
「とりあえず、戻ろうよ」
私の口から煙草を奪って、紅いルージュのついたそれを灰皿に押し付ける。
まだ火をつけたばかりだったのに。どんどん値上がりする昨今の煙草事情を甘く見ないでほしい。
「勝手に帰るから放っといてください」
「だめだよ。菜穂サンは今日から俺のアシスタントだから」
「金村です。なんの冗談ですか?」
「編集長直々のご命令だよ。ほら、打ち合わせしよう」
言い終わらないうちに、早々に喫煙室から出ていた。
顔をしかめていたから、煙草が苦手なのだと思う。
私も渋々その後を追った。
ナンパしてきた男が自分の部署に異動してきて、挙げ句私は彼のアシスタントに。
自分でも気づかないうちに惹かれ、恋に落ちる。
ドラマだとしたら1クールも持たないほど、ベタな展開。
よく言えば、おいしい展開。
って、ふざけないでよ。
そんなことあってたまるか。
下手なラブストーリーみたいに、恋が始まったりするわけがない。
あんなやつ、要と正反対じゃない。