苦くて甘い恋愛中毒


「うまかったな〜! やっぱこの店最高!」

空に向かって大きく伸びをしながら話す五十嵐さんのうしろで、明らかに不似合いな不機嫌そうな私の顔。


「あれ? 菜穂ちゃん、どうした?」

きょとん、と言った表情で問い掛けてくる。
私がどうしてこんな微妙な顔をしているのか、見当もつかないと言ったように。


「しつこいようですけど。自分の分は払わせてください」

財布を取り出した私を制し、五十嵐さんがお会計を済ませてくれた。

人前で払う払わないの議論をするのもみっともなく思え、そこでは彼に従ったが、後できちんと払おうと思っていたのに。
私の意見を丸きり無視して、一銭も払わせてくれないのだ。


「俺が誘ったんだからいいって。大人しく奢られておきなさい」

握りしめた私の財布をとり、肩にかけたバックにそれを押し込む。
人のことを言えた義理じゃないけど、この人もなかなか強情だ。


「じゃあさ、飲み直ししようよ。ビール奢って」

そう言って、近くにあるコンビニを指差す。

けして安くはないイタリアンとコンビニの缶ビールじゃ、絶対に平等じゃないと思うけど、これ以上引き下がっても大人げないと、渋々了承することにした。


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