苦くて甘い恋愛中毒
コンビニで缶ビールとつまみを買って、近くにあった公園へ移動する。
12月上旬のこんな寒空の中、大の大人がふたりしてビールを飲んでいるなんて、正気とは思えない。
でも、そんなことも気にしないでいられる程度に、ほろ酔い気分になっていた。
「仕事終わりのビールは最高だね」
まったく、同感。
この瞬間のために働いてると言っても過言じゃないくらい、至福の時間なのだ。
「付き合ってくれてありがとう」
急にトーンを変えて言うから、思わず戸惑ってしまう。
「こちらこそ、楽しかったです。誘っていただいてありがとうございました」
要から連絡が途絶えて2ヶ月。
今までで最長記録だから、少し落ち込んでいたところに、思いがけず楽しい時間だった。
久々に自然と笑みがこぼれた。
「今日さ、俺誕生日なんだよね」
ビールが通る道筋を間違えたようで、ゴホゴホとむせ返る私を見て、お腹を抱えて笑っている。
「……お祝いしたのに」
「……ありがとう」
そろそろ帰ろうか、という彼の声でふたり同時に立ち上がる。
そんなに量を飲んだわけでもないのに、足がふらつき咄嗟に彼が支えてくれた。
私たちの物理的な距離は20㎝もなく、そんな距離感で顔を見合わせることがなにに繋がるのか、分からないほど子供じゃない。
やばい、キスされる。
受け入れることはもちろん、避けることもできず、どうしようと思っていると、急に体が引き離された。
ほら、帰るよー、と歩き出す彼の背中をじっとみつめる。
駅までの道のりも、隣で五十嵐さんがなにかをしゃべっていたけど、よく覚えていない。
ただひたすら、あの人懐っこい笑顔と、あの刹那に見せた真摯な顔とが、交互に頭でリピート再生されていた。