苦くて甘い恋愛中毒

揺らぐ



「惚れたか、五十嵐に」

翌日、喫煙室にて理恵に昨日の出来事を話す。
すると、なんとも楽しそうな顔をしてそう言い放った。

「なんでそうなんのよ!」

「なんでって、あの男のことを一瞬でも忘れた程度には楽しかった訳でしょ? その後、五十嵐のことが離れなかったんでしょ? 挙げ句、キスまでしちゃうなんてねぇ」

確かに要約するとそうなるけど、そんな冷静に分析しないでよ。
認めたくないことなんだから。

って、キスはしてないから!!


「よかったじゃん」

よかった? 
なにが。なんにも、よくなんかない。

「菜穂の口から仲山さん以外の名前が出るなんて初めてだもの」

理絵の意見はいつも的確だ。

要と出会ってから3年半。
彼以外の男に目を向けたことはなかったし、そんなことできなかった。

それなのに。
ほかの男と一時を過ごし、ほんの少しとはいえ、うっかりときめいてしまっただなんて。
絶対にありえなかった。


「いいじゃない。流されてみれば?」

理恵が思いがけない言葉を発する。

いや、ありえなくもないか。
ずっとほかの男に目を向けてみろと言い続けていたのは、ほかでもない、理恵だ。


「あんたは真面目すぎる。余計なこと考えずに状況と思いのままに身を任せるのも、時には大切だっていってるの」

そんな怖いこと言わないで。
今の状況を変えるなんて、そんなことできないし、したくもない。

私はこんなにも臆病な人間だったのか、と改めて思い知った。


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