苦くて甘い恋愛中毒
「ちょっと、金村菜穂! 聞こえてる?」
名前を呼ばれ振り向くと、眉間に皺をよせて仁王立ちする姿。
まったく、恐ろしいったらない。
目の前にそびえ立つこの美女、名を米沢理恵という。
私の同期、かつ親友。
(むしろ悪友ともいう)
小さな顔に黒めがちな大きな目が特徴的な彼女は、まるでリカちゃん人形そのものだ。
明るいキャラメル色のロングヘアーをいつも完璧にカールさせ、彼女の戦闘服であるひざ上10㎝のワンピースを着こなすこのお人形さんが、毒舌な腹黒女だとだれが想像するだろう。
自由に気高く、我が道を爆走する彼女。
その生き様はお見事としか言いようがない。
どれだけ無茶苦茶であっても、傍若無人ともいう態度を取ろうとも、周囲の人間が半ば呆れ顔で黙認するのは、彼女の美しさと潔さ所以だろう。
「さっきからずっと呼んでるんだけど? 仕事熱心なのは構わないけど、シカトだなんて流石のあたしも傷つくわ」
「よく言うわよ、そんな柔な女じゃないでしょ。なに、どうしたの?」
「どうしたって、もう12時過ぎてるよ? 早くランチ行こ。あんた午後から取材でしょ」
集中していて気付かなかったけど、あれからもう1時間以上も経過、ランチタイムになっていたようだった。
書いていた原稿を慌てて保存し、彼女の後を追った。