苦くて甘い恋愛中毒
「菜穂、変化を恐れるな。いつまで留まってるつもりなの。あの男だろうが、五十嵐だろうが、結果はどっちでもいい。前へ進む努力をしてみろって言ってるのよ」
いつもそうだ。
理恵は誰よりも厳しくて、そして誰よりも優しい。
不器用な優しさにいつも救われてきた。
背中を押されてきたのだ。
自分がどうしたいのか。
余計なことをすべて取り除いて、真摯にそれだけを考える。
まあ、考えたところで答えなんてそう簡単に出るわけもなく。
とりあえず、この件については一時保留ということにして仕事に戻ることにする。
さすがにいつまでもさぼってる訳にもいかない。
伸びをしながら喫煙室を出た、その瞬間。
「あ、菜穂ちゃん!」
五十嵐さんだ。
タイミングの悪さを本気で呪った。
昨日の今日で、真っ正面から顔なんて見れるわけがない。
「来週の金曜の夜、空いてる?」
なんなの。このいきなりの誘いは!
「え……、一応、空いてますけど……」
待って待って待って!
いくらなんでも急展開すぎる。
「菜穂ちゃん、もしかしてなんか期待した?」
ニヤリと悪戯っ子のような顔をした五十嵐さんに顔を覗き込まれる。
自分の顔がみるみる内に赤くなっていくのがわかった。
顔の温度を下げるように、両手を頬にあてる。
恥ずかしすぎる。
自惚れもいいとこだ。