苦くて甘い恋愛中毒
「残念だけど、デートじゃないよ」
そう言って、一枚の紙を目の前に差し出す。
PCのメールを印刷してきたといった感じだろうか。
なんだろうと思いながら、その紙を確認する。
それはあるホテルレストランの50周年記念パーティーの案内だった。
以前、私と五十嵐さんが取材したレストランだ。
ホテルレストランの割にはリーズナブルで、でも味は抜群。
私たちの雑誌を見て来たという新しい層のお客様が増えた、と感謝のお電話をいただいてうれしかったのを覚えている。
「すごい! これに招待されたってことですよね?」
「編集長に言ったらふたりで行ってこいってさ。菜穂ちゃん、行くでしょ?」
「もちろんです!」
出版社の謝恩会やレセプションには二、三度くっついていったことはあるけど、もっとラフなもので。
今回のようにドレスコードまであるような招待制のものなんて、入社以来初めてだ。
「ま、そういう訳だから。金曜の夜空けといてね。ドレスアップした菜穂ちゃんも楽しみだな〜」
「別に、五十嵐さんのためにオシャレするんじゃないです」
こんな風に冗談を交わし合って。
五十嵐さんはもとの仕事へ戻り、私もやっとオフィスへと戻る。
ガラスに写った自分の顔を見て、思わずはっとした。
誰が見ても、なにか楽しいことがあったと想像できるような表情だった。
ありえない、こんなの。
本当に五十嵐さんに惹かれてるのかもしれない。
だって、理恵の言った通り、要のことなんて頭になかった。
無意識のうちに乱してしまった髪と同じように私の頭の中もぐしゃぐしゃだった。