苦くて甘い恋愛中毒
「みなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます。こうして五十周年というめでたい日を迎えられたのも、みなさまのご尽力のおかげです」
オーナーのスピーチは約十分にも及び、どれだけこの日を心待ちにしていたか、ここにいるすべての人への感謝の気持ちがひしひしと伝わってきた。
「なにはともあれ。みなさまとご一緒に今日という日を楽しみ、これからもがんばっていきたいと思っております。みなさまもすでにご存知の通り、ささやかなお食事もご用意いたしました。おいしい料理とワインでゆっくりとおくつろぎください!」
最後にもう一度、深々と長く綺麗なお辞儀をしたオーナーに、会場の人々は一際大きな拍手を送った。
こんな素晴らしいお店を取材できて。
素敵なパーティーに呼んでいただけて。
本当によかったと思った。
それは、隣にいる五十嵐さんも同じなようで、ふたりで穏やかな笑顔を浮かべあった。
パーティー開始から1時間半程経った頃、食事もそこそこに、ワインを片手にそれぞれ談笑を始め、オーナーの周りは常に人であふれかえっていた。
私たちもひと言でいいから、お祝いとお礼を申し上げたいのに、どれだけ待ってもその機会は訪れそうになかった。
「しょうがない。これじゃ埒が明かないし、強行突破しよう」
ついに痺れを切らした五十嵐さんがそう言った。
強行突破って、そんなことできるの?
というより、していいものなの?!
「いやいやいや! なにするつもりですか?」
「これだけ待ったんだし、ちょっとくらいいでしょ? 合い間狙ったらそんなに不自然じゃないって。ほら、行くよー」