苦くて甘い恋愛中毒
私の制止の言葉もむなしく、どんどん足を進める。
とりあえず、人だかりができているオーナーの周りに来てみたものの、いろんな人と楽しそうにお話をされている中に、無理矢理入っていくほどの図々しさも厚かましさも、生憎持ち合わせていない。
まさか、ここを強行突破するつもりじゃないよね?
申し訳ないけれど、もしそのつもりなら私だけでも退散させていただく。
でも、隣でたじろんでいる五十嵐さんを見るところ、そのつもりではなさそうだから、少し安心した。
でも、さすがは日本屈指のホテルレストランだけはある。
周りの人の会話をちょっと盗み聞いただけでも、官僚だのモデルだの、すごい人々が集まっている。
そんな人が時間を割いて、わざわざパーティーに足を運ぶのはやはりオーナー対する人望の厚さと言えるのだろう。
「五十嵐さん、金村さん!」
さすがの彼も無理だと判断したのか、少し離れたところでワインを味わっていると、オーナー自ら声をかけてきてくれた。
慌ててオーナーの元へ駆け寄る。
「来てくださってありがとう。楽しんでらっしゃいますか?」
「は、はい! すごく素敵なパーティーで……」
少し興奮気味の私の言葉から気持ちを汲み取ってくれたらしく、オーナーは穏やかに微笑んだ。
「お招きいただきましてありがとうございます。50周年おめでとうございます!」
五十嵐さんがオーナーに向き直り、お礼と祝福の言葉を述べる。
そうだった。
それを言うためにここへ来たのに。
「50年なんて実感が湧きませんけど……これもみなさまのお力添えのおかげです」
少しの嫌味もなく、自身を謙遜するオーナーを見ていて、本当に素晴らしい人だと思った。
このような方だからこそ、ここまでやってこられたのだと思う。