苦くて甘い恋愛中毒
「あれ?」
突然声を上げた五十嵐さんに、思わず顔を上げた。
「あれって、さっきの……仲山さんじゃない?」
外から吹き込んでくる冷たい風に凍えながらエントランスを出ると、ホテル前にたくさん並んでいるタクシーに紛れて、夜の暗闇の中でも一際目立つ高級外車。
それにもたれて、気だるそうに煙草を吹かすあの男を、私が見間違えるわけがない。
どこにいたって、私は要を見つけられる。
「要、あんなとこでなにやって……」
心の声が思わず出てしまっていたらしい。
不思議そうに私を見る五十嵐さんには申し訳ないけど、今は彼のことを考えている余裕はなかった。
要しか、映ってなかった。
ひとりで、なにしてるんだろう。
ただ煙草を吸うなら車の中ですればいい。
それこそ喫煙室だってあるし、少なくともこんな寒空の中わざわざすることじゃない。
誰かを待っているのだろうか。
そう思い、咄嗟に頭に浮かんできたのは桜色の彼女。
相沢さんを、あの車で送ってくの?
かつて私にそうしたみたいに?
またも視界に入る黒。
もう、なんにも見たくなかった。
このドレスも、いつもよりも幾分も高いヒールも、楽しそうに笑い合う、あのふたりも。
慣れない靴を履いたからか、靴擦れで足がじんじんと痛む。
痛むのは本当に足なのかな。
締め付けられる位の私のこの心の方が、よっぽど重傷な気がするけど。