苦くて甘い恋愛中毒


「もしかしてさー、菜穂ちゃんの好きな人ってあの人だったり?」

なんでもないかのように聞いてくるのが、返って痛々しい。

そうだ。
いましがた私を想って言ってくれたのに、それには答えずほかの男に視線を奪われているなんて。

彼を傷つけてしまった事実に、ただうなずくことしかできなかった。


優しく、でも絶対に逆らえない、彼らしい絶妙な力加減で肩を引かれる。

「潮時なんでしょ? あきらめる勇気だって必要だと思うけど?」

いつもと口調は同じだけど、明らかに様子がおかしかった。
きっと彼をこんなふうにさせてしまったのも私のせいだ。

――こんな自分が本気で嫌いだ。
人を、傷つけることしかできない自分が。


私を連れて、タクシーが多く並ぶところへ向かっていく。
あえて要の視界に入る場所に連れていったのは、偶然なのか、故意なのか。

要がこっちを見ているのに気がついた。
この暗闇のせいでその表情までは分からないけど。

こんな状況になってすら、要のことばかりで。

要の方も、五十嵐さんの方も、見ることができなかった。


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