苦くて甘い恋愛中毒
「選んで。俺か、あの人か。
俺なら絶対寂しい思いなんかさせない。菜穂がうんざりするほど愛すよ」
私の方は向かずに。
ただひたすら要だけを見据えて。
最上級の言葉を囁いてくれた。
要には聞こえないように。
でも、私にしっかり伝わるように。
きっと、五十嵐さんの言葉に嘘はない。
もし彼を選んだら、今言ってくれた以上に大事にしてくれる。
でも…
「菜穂、帰るぞ。さっさと車乗れ」
再度私の名を呼んで。
相変わらず身勝手な言い分を口にする。
それでも、思わず従ってしまいそうになるのは。
やはり惚れた弱みというやつなのだろうか。
「五十嵐さん、ごめんなさい。
五十嵐さんを選んだら、きっとすごく大事にしてくれて幸せだと思う。
でも、自分でも馬鹿だと思うけど…それでも、あの人が好き」
私の右肩に置かれた彼の腕をそっと下ろして。
同時にその手を優しく握る。
五十嵐さんは何も言わなかった。
ただ、優しくて切なげな表情を向けただけ。