なまけもの
「ただいま」
「あー、お帰り聖」
思い足取り(とはいっても自転車だが)で家についた聖は、最近の芸能人の恐妻の定位置ともいえる三人掛けのソファに横たわる零ににこやかに話かけられた。
悪びれる様子は微塵も、ミジンコ程も無いようだ。
聖にふつふつと朝の怒りが蘇ってきた。
「あ、今日の晩御飯はねェ…
鯖の味噌煮と
玄米ご飯に
ほうれん草のお浸し
と、野菜たっぷりコンソメスープね~。」
アレ?
見事な和風で締められるのかと思いきや、最後の最後で洋風なものがでてきた。
といっても聖は慣れたものらしく、自身の好物が出てくるので(不機嫌だった理由すら忘れて)ご満悦だ。
聖がどんなに腹の立つ事をされても零を家から追い出さない理由は、専らこれである。
三食全て零が作るのだ。
単身赴任で海外へ飛んだ両親が月々仕送りしてくる二人の人間を養って少し余る程度の金額の約三分の一を零に渡せば、毎日の献立から栄養価、カロリー計算まで叩き出してヘルシーで尚且つ絶品なおやつもついてくる。
全自動給食マッスィーンだ。
味はもとより盛り付けまで細部にこだわったご飯の数々は聖の悪意、失意、絶望、害意、その他諸々etc.etc.を削ぎ落とす。
なんだこのナチュラル・デトックス。
というわけでようは聖は餌付けされているだけである。
更にいうと、聖は零を家から追い出すことが出来る権限なぞ持っていないのであった。