今宵の月は美しい【完】
お昼休みだから、いると思うけど…。

本人から「堕ろして」、って言われるのは、怖い。


ノックをしたら、すぐに「どうぞ」と返ってきた。

他の生徒が来ていなくて、よかった。

赤い目をした私を見て、机で何か書いていた中鉢は、驚いたようにガタと椅子から立ち上がった。

仕事中だよ。
先生なんだよ、中鉢は…。

「どうした」

迷惑なのはわかっているのに、会いたくて仕方なかった。

顔を見て声を聞いたら、ここに来るまで我慢していたものが、一気に溢れ出した。

「うわーん!」

ここが学校の生徒指導室だと言う事も、怖がっていた事も、ちょっと忘れても良いですか。

緑の爪でおもいっきり抱きつき、大声をあげて、私は泣いた。

きっとこの声は、昼休みの廊下まで聞こえているはず。

でも誰もやってはこなかった。

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