今宵の月は美しい【完】
わぁ、と教室がざわめいた。

私は頬杖から、顔がガクリと落ちた。



言ってたね、中鉢。

『ずっと思ってたんだけど、月が綺麗だね』

初めて夜に会ったあの日から、何度も中鉢は私に言っていた。


ずっと思ってたんだ?

信じるのが怖くて、私は聞いていない振りばかりしてた。


あの日からあなたがたくさん書きためたラブレターを、突然束にして受け取ったような気持ちになった。

「今この話が良いなー、と思えた人は、気持ちが日本人なのかもね。
今日はここまで」

とん、と教科書を揃え、中鉢は教室を出ていった。

今の話に興奮気味の女子が2人、中鉢のあとを追い掛けて行った。


陣野さんは、うっとりとしてる。

私はいつまでも、中鉢の書いた綺麗な字…黒板に残ったあいらぶゆーの文字を眺めていた。

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