今宵の月は美しい【完】
ガバと顔を上げたら、もうジョニーは階段をギシギシ言わせながら、上がって行ってしまうところだった。



どれくらい時間がたったのか、「頼子」、と声を掛けられて顔を上げたら、今度こそ中鉢だった。

辺りはすっかり暗くなっていた。

「遅くなってごめん。入ってたら良かったのに。怖かった?」

あなたのいない、あなたの匂いのする空間になんて、耐えられない。

でもそんなこと言えないから、頑張って笑顔を作りました。

「おかえり!」

「ジョニーいたんじゃない?
呼んで平気だよ、あとでバイト代出すし」

今日はあのガイジン優しかったなー。
いつもがどうなのかは知らないが。

「ねぇ、チューバチのさぁ、趣味ってなに?」

上着をかけている背中に向かい、私は問いかけた。

陣野さんとの約束。

なによりもまず、聞いてあげなくては。

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