今宵の月は美しい【完】
でも嬉しい。

私が怒れないのを、まるで代わりに怒ってくれているみたい。

そんなのしてくれなくても良いのに。


この殻の中身は、気味の悪い蝸牛(かたつむり)。

あなたは気付かず、壊さないように殻を剥ぐ。

いつもより濃いメイクで汚れた私の顔を、液体とは思えないくらい、大粒の涙が伝って行った。




どうやって話したんだろう。
そんなに抱きしめたら、息苦しいっての。

「助けてあげるよ。
我慢するのは、もう少しだけでいい」

そんなこと言ってくれた大人は、初めて。

泣いてるのが中鉢の方に見えて、私は彼の頭を撫でた。

なんかカワイソー…

私に騙されてる、また。

「気持ち良かったね!
なんか元気になっちゃった!」

私の言葉に中鉢は、悲しそうな顔をしただけだった。

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