今宵の月は美しい【完】
「どうしてそんなこと言うの?って聞いたら、月が綺麗だから、って言う?」
服を着ている私にそれを教えてくれても、恥ずかしくて嬉しくて、茶化すことしかできないよ。
「そうだな。今日は特に綺麗だね」
そうかなぁ?
いつもと何が違うのか、わからない。
見上げれば、誰かがガブリと齧り付いたものの、あまり美味しくなくて途中で食べるのを止めたような月。
口を尖らせ上を向く私に、中鉢は「こけるなよ」と笑った。
「あ、趣味?古本屋巡り。
特技はクロスワードの早解き。好きな食べ物は、お刺身」
「お刺身、私も好きー!」
「美味い寿司屋があるんだ。
今度一緒に行こう」
本気で言ってるといったそばから、一緒に行こうとか…。
行けるわけないくせに!
私は答えず、繋いだ手の小指をからませ、ちょっと振ってみた。