私だけの王子さま
「あのー、私はこれで…。」
「…あ、待って、相原さん!」
さりげなく立ち去ろうとした私を、花梨さんが慌てて呼び止めた。
よく見ると、その顔はほんのり赤く染まっていて、さっきの‘もしかしたら’が一気に確信に変わる。
少し前まで、委員長との仲を疑っていたことに、申し訳なさを覚えた。
「…何ですか、花梨さん。」
あまりの慌てぶりに、私が少し笑いを堪えながら言うと、花梨さんは、一瞬だけバツの悪そうな顔になった。
だけど、すぐにまた、いつも通りの花梨さんに戻る。
「一応、今度はいつ来てもらえるのかだけ、聞いておいてもいい?」
「あ、そっか…。」
せっかくボランティアをすることになったのに、日にちを決めていなかったら意味がない。
私は、持っていたバッグの中から、手帳を取り出し、8月のページを開いた。
毎日のように、合コンやらデートやらが入っていた今までの夏休みとは違い、今年の予定はほぼ真っ白。
「あの、いつでもいいんですか…?」
「うん、もちろん。相原さんさえ良ければね。」
花梨さんもそう言ってくれているし、私もやるならば、とことん全うしたいと思った。
「…じゃあ、明日でお願いします!」
「うん、分かった。他の職員にも言っておくね!」
「はいっ!よろしくお願いします!」