私だけの王子さま
そんな楽しい雰囲気が、これからもずっと続いていけばいい。
この時の私は、ただ漠然と、そう思っていた。
だけど、聞こえてしまったんだ。
「…じゃあ、今度こそ、失礼しますね。」
私がそう言って、事務所のドアを開けた後。
こっそりと話し始めた、委員長と花梨さんの会話を。
「雪也くん、終わるの、早かったのね?」
「はい、午前中だけだったので…。」
私は、履いていた運動靴の紐を直すふりをして、そっと耳を傾けた。
「…あのこと、相原さんには話したの?」
「いえ…まだ…。」
「そう。大丈夫?」
「…はい。」
「でも、相原さんならきっと、受け止めてくれるはずよ。」
「………。」
トントン…
つま先を軽く地面に押し付けて。
そのまま、自動ドアから外へ出た。
その瞬間、夏の夕方に独特のモヤモヤした空気が、私の周りを囲む。
ミーンミーン…
蝉たちの忙しそうな声を聞きながら。
私は、ホームをあとにした。