私だけの王子さま
暗い表情で俯いていた私に、花梨さんが慌てて言った。
「あ…、でも誤解しないで。
今はもう、ご家族がよく面会にいらっしゃってる。
相原さんは、まだ会ったことがないかもしれないけど」
「あ…そうだったんですか。私、てっきり…」
誰とも、結びついてないのかと思っていた。
ホッとしたのも束の間。
花梨さんは、話を続ける。
「だけど、そうなったのもつい最近のことなの。
お孫さんの事故があってからは、介護ができない状態になってしまって…」
確かに、家族の気持ちを考えれば当然のことかもしれない。
娘さん夫婦にとっては、舞さんは大切な一人娘だったのだから。
「…その時、ちょうどうちのホームに空きがあって。
話し合いの結果、入所することになったの。
何よりも、本多さん自身がそれを望んでいたから」
「え…?」
本多さん自身が望んだって…。
パッと視線を上げると、花梨さんは、悲し気な表情を浮かべていた。
その時、私は悟った。
花梨さんは、いつもお年寄りに明るく接している。
全ての事情を知りながら、それを受け止めている。
本当は、すごく、辛いんだ…。