私だけの王子さま



「あ?」


耳を澄ませなければ聞こえないほどの小さな声に、すかさずアキラが反応する。


今にも、委員長の胸ぐらに掴みかかりそうな勢いだった。


でも、委員長は怯まない。


目の前のアキラをきつく睨み付け、今度ははっきりと言った。



「やめて下さい!!
俺、過去のことは忘れたいんです」



きっと、勇気を振り絞って言ったのだと思う。


その証拠に、委員長の拳は、震えるほど強く握られていた。



委員長の忘れたい過去。


それは、おそらく、花梨さんが言っていた、辛い過去のことだろう。


でも、その中に、アキラがいるの?


委員長を苦しめているのは、私と同じ人なの―――?




「アホくさ。
あのなぁ…。どんなに頑張ったって、過去は消えねぇんだよっ!!」


アキラは呆れたように言うと、今度は地面にペッと唾を吐いた。



「っ…」


委員長のショックを受けたような表情…。


「委員長…」


私が、口を開いた瞬間。



ダッ―――……!



委員長は、背を向けて、走り出していた―――。





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