私だけの王子さま



――本多さんの娘?


…ということは、亡くなった舞さんのお母さん?


私が何も言えないまま、立ち尽くしていると、後ろから花梨さんの声が聞こえた。


「あれ?

谷本さん、いらしてたんですね」


花梨さんは、そのまま部屋の中へ入り、谷本さんに挨拶をしている。


「今日は、ご面会ですか?」


「ええ、色々と準備もありますので…」



―――面会は分かるけれど、準備って何のことなのだろう?


疑問を浮かべながら、二人の様子を見ていた私に、花梨さんが目を向けた。


「そっか、相原さん。会うの初めてだよね?

こちら、本多さんの娘さん。谷本さんっていうのよ」


「あ…はい。今、伺いました」


「え?そうだったの?」


私は、目線は変えずに、小さく頷いた。



「そう。それなら、お互いに話したいこともあるだろうし…私は、事務所に戻りますね。
例のことで、何か不安とかあれば、いつでも声を掛けて下さい」


花梨さんは、それだけ言うと、部屋を出て行った。



例の件…?


何となくその言葉が引っ掛かったけれど、今はそんなことを気にしている場合ではない。


私は、花梨さんが出て行った入口から、谷本さんへと視線を戻した。




数日後、この時に聞いておかなかったことを、後悔するとも知らずに―――。




< 171 / 220 >

この作品をシェア

pagetop