私だけの王子さま
――本多さんの娘?
…ということは、亡くなった舞さんのお母さん?
私が何も言えないまま、立ち尽くしていると、後ろから花梨さんの声が聞こえた。
「あれ?
谷本さん、いらしてたんですね」
花梨さんは、そのまま部屋の中へ入り、谷本さんに挨拶をしている。
「今日は、ご面会ですか?」
「ええ、色々と準備もありますので…」
―――面会は分かるけれど、準備って何のことなのだろう?
疑問を浮かべながら、二人の様子を見ていた私に、花梨さんが目を向けた。
「そっか、相原さん。会うの初めてだよね?
こちら、本多さんの娘さん。谷本さんっていうのよ」
「あ…はい。今、伺いました」
「え?そうだったの?」
私は、目線は変えずに、小さく頷いた。
「そう。それなら、お互いに話したいこともあるだろうし…私は、事務所に戻りますね。
例のことで、何か不安とかあれば、いつでも声を掛けて下さい」
花梨さんは、それだけ言うと、部屋を出て行った。
例の件…?
何となくその言葉が引っ掛かったけれど、今はそんなことを気にしている場合ではない。
私は、花梨さんが出て行った入口から、谷本さんへと視線を戻した。
数日後、この時に聞いておかなかったことを、後悔するとも知らずに―――。