私だけの王子さま
「柚季さん。
あなたのことは、少し前に母から伺ってました。
いつも、ありがとう」
「あ、いえ…。こちらこそ、本多さんには、いつも良くしていただいて…」
優しく微笑む谷本さんの表情は、本多さんとそっくりだった。
だけど、何故だろう?
ベッドで私たちの様子を見ている本多さんは、寂しそうな表情を浮かべている。
そんな本多さんを見るのは、舞さんの話をしていた時以来だった。
「舞の夢を叶えるって言って下さったそうね…?」
「え…?」
気が付くと、谷本さんは、ベッドの横に飾られている写真立てを愛おしそうに見つめていた。
舞さんと学さんが、寄り添い、笑顔を浮かべている、あの写真。
私は、どんな言葉を返せば良いのか分からなかった。
谷本さんの瞳に、涙が光っていたからだ。
「あの…」
恐る恐る声を掛けると、谷本さんは、鼻をすすりながら、慌てて涙を拭った。
「…ごめんなさいっ!
ちょっと、色々思い出してしまって…」
そう言って、無理に笑顔を作ろうとしている様子に、胸が締め付けられる。
亡くなった自分の娘に対する深い愛情が、痛いほど伝わってくるような気がした。