私だけの王子さま
約束
その日の夕方、私が事務所に立ち寄ると、浮かない顔をした花梨さんがいた。
見るからに、背後に灰色の空気が漂っていて、何となく話しかけづらい。
でも、帰るのに挨拶をしないわけにもいかなかった。
「花梨さん。私、今日はこれで失礼しますね」
なるべく明るい声で言った。
すると、花梨さんは驚いたように時計を見て、
「嘘!もうこんな時間!?」
と叫び、立ち上がった。
どのくらい、ボーッとしていたのだろう?
「何かあったんですか?」
私が尋ねると、花梨さんは慌てて首を横に振る。
「あ…ううん。何でもないの。
やだな、私。
ボケッとして…疲れてるのかな?」
そう言って、わざとらしく肩を軽く叩いている。
「……?」
少しおかしな気もしたけれど、私はそれ以上深くは聞かなかった。
すると、花梨さんは、そばにあったカレンダーを見ながら、おもむろに尋ねて来た。
「相原さん、次来るのいつだっけ…?」
「え…?
あぁ、明日と明後日は用事があるので、3日後ですね」
ちなみに、明日は久しぶりに麻智を含めた友だち数人と遊び、明後日は母親と買い物に行く予定になっている。