私だけの王子さま
「開けないの…?」
花梨さんは、私の行動に少し驚いた顔をしている。
でも、私は、家に帰ってから、一人で見ようと思っていた。
何となくだけれど、本多さんが‘そうして’と言っているような気がしたのだ。
「はい。
開けるのは、帰ってからにします。
だから、もう少しここにいてもいいですか?」
本多さんからの最後のメッセージを見る前に、
その存在を心に焼き付けておきたかった。
「ええ、もちろん」
花梨さんは、そう言って微笑むと、静かに部屋を出て行った。
「委員長も見ないの?」
私と同じように、大事そうに封筒を鞄に入れた委員長は、その問いかけに、穏やかな表情を浮かべた。
「うん。
俺も…家でゆっくりと見るよ。
相原と同じで、今は何か、ただここにいたい気分なんだ」
「そっか…」
私は、もう一度、部屋全体をぐるりと見回した。
いつの間にか、どんよりした曇り空は立ち去り、眩しいほどの光が、残された私たちを照らしていた。