緑の風がそよぐとき
密かな想い
日曜の朝、いつものように玄関でスニーカーを履いていると後ろから声が聞こえた。
「ほら、忘れ物」
そう言って、わたしのお気に入りのピンクのキャップを後ろ向きに被せてくれたのは七つ年上の兄。
「彬兄(あきらにぃ)、サンキュ」
わたしはスニーカーを履き終え振り返る。
そこにはいつもと変わらない優しい彬兄の笑顔がある。
「真琴のジャージ姿もすっかり見慣れたな」
「もうふた月だもんね。我ながらよく続いてるよね」
「ほんとに、真琴は昔から三日坊主だったからなぁ」
そこでわたしのパンチが彬兄のお腹に入る。
彬兄は「うっ」と痛がるふりをする。
「一言多いの!いってきます!」
わたしはプイッと横を向き、そのまま玄関から出て行こうとする。
後ろから彬兄の声がかかる。
「気をつけて行くんだぞ」
「いつものウォーキングなのに大袈裟過ぎ!」
わたしは振り返りべーっと舌をだした。
でも、ほんとはそんな心配性な彬兄の優しさが心地好い。
七つも年が離れているせいか、いつでも彬兄は優しくて、小さい頃両親に怒られたときも、後で絶対に慰めてくれた。
いつまでもその優しさが続けばいいのに……。