緑の風がそよぐとき
その後、どうやって家まで辿り着いたのかよく覚えていない。
家の前で、仕事に出かける倫太郎から声を掛けられた気もするけど、その声は耳に入らなかった。
神社での出来事が、本当にあったことなのか、夢でも見ていたんじゃないか、考えれば考えるほどわからなくなる。
不思議な青年と、不思議な出来事。
そして、わたしに何を願っていたのかと尋ねた。
願いを叶えてあげるとも。
今まで、あの神社でいつも手を合わせていたけれど、何かを願っていたわけではなかった。
わたしの願い……。
あるのかもしれない。
けれど、見ないようにしている。
だってそれは叶うことのない願いだから。