緑の風がそよぐとき
けれど、そこには誰もいない。
このふた月、未だにこの神社で人に会ったことはない。
誰もいない境内を眺めていると、わたしの頬を風が掠め、桜の新緑の葉をさわさわと揺らし流れていった。
一瞬時間が止まったような不思議な感覚。
すると目の前にひらひらと何かが落ちてきた。
思わず手のひらで受け止めようとする。
その手のひらにふんわりと落ちたもの。
「花びら…?」
うす桃色の小さなもの。
わたしの知る限り、桜の花びらに見える。
まさか?
もう6月だよ?
辺りをきょろきょろと見渡してみる。
けれど、花らしきものは見当たらない。
それがとても大事なもののように思えて、持っていたハンカチにそっと包んだ。