Monsoon Town
追っても、追っても、届かなかった背中が頭の中で映像と化してよみがえる。

自分を置いて進んで行く背中に、自分は泣き叫ぶことしかなかった。

――行かないで!

――置いてかないで!

どんなに泣き叫んでも、あの人は止まってくれなかった。

わがままは言わないから。

もう泣かないから。

叫んでも、願っても、あの人は振り向いてくれなかった。

「――陣内さん!」

綾香の声に、陣内はハッと我に返った。

ああ、これが現実だ。

自分は夢を見ていたんだと、陣内は自分にそう言い聞かせた。

「あの、大丈夫ですか…?」

心配そうな顔で、綾香が聞いてきた。
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