Monsoon Town
陣内に会った瞬間に倒れて、彼におぶってもらっていたことを那智は思い出した。

ふと陣内の手元に視線を向けると、彼が何かを持っていることに気づいた。

「あの、それ…」

「ああ、これか?」

陣内は手に持っていたそれを那智に見せた。

それは、那智のお気に入りの恋愛小説だった。

「お前、こう言うのが好きなんだな。

結構おもしろかったぞ」

感想を述べた陣内に、
「返して!」

那智は陣内の手から文庫本をひったくった。

彼の手から奪った文庫本を、那智は背中に隠した。

「隠すようなものだったらちゃんと片づけろ。

そこら辺に置いといたお前が悪いんだから」

不機嫌そうに言い返した陣内に、那智は目を伏せた。
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