Monsoon Town
甘い言葉をささやけば、自分に寄ってくると思ってる。

かわいいとか美人とかって言えば、相手が喜ぶと思ってる。

そう思っているから、現実の男は嫌いだ。

大嫌い。

だから、恋愛小説のようなロマンチックな恋を夢見ていた。

王子様みたいな素敵な男の人が現れて、ロマンチックで甘い恋をすることを夢見ていた。

「――すまない」

長い沈黙の後で、陣内が言った。

顔をあげると、鋭い眼光の瞳はなかった。

優しい眼差しで、自分を見つめる瞳があった。

慰めでも、同情でも、何でもなかった。

「俺が現実に目を向けろと言ったのは、那智が本当に美人だったからなんだ」
< 167 / 433 >

この作品をシェア

pagetop