Monsoon Town
「――何だ…」

誰にも聞こえないように、那智は小さく呟いた。

ちゃんと相手がいたんじゃないかと、那智は思った。

もうすでに決められている相手が隣にいたんじゃないかと、那智は言いたくなった。

(バッカみたい…)

自分は、退屈しのぎのための相手だったのかも知れない。

(そもそも、間違ってる)

よくよく考えてみたら、自分と陣内じゃ身分が違うのだ。

彼は会社を経営する社長で、自分はその会社で働くただのOLである。

例えるとするなら、王様と町娘だ。

あまりにも、身分が違い過ぎて結ばれる訳がない。

「――現実は、恋愛小説とは違うんだな…」

那智の小さな呟きは、潮風によってかき消された。
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