Monsoon Town
 * * *

それが起こったのは、9歳の夏だった。

「龍平、伸一郎くん、おやつよー」

庭で遊んでいた陣内と藤堂に声をかけたのは、陣内の母親だった。

「はーい!」

大きな声で返事すると、遊び道具を放り投げて中に入った。

「あーあ、もう汗びっしょり」

母親は困ったように言いながら、どこか嬉しそうだった。

「おやつの前にお風呂に入ろっか?」

「うん、わかった!」

誰から見ても、それは幸せな光景だった。

けど、それが崩壊する出来事が近づいていることをまだ知らなかった。
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