Monsoon Town
小さな声で呟いた陣内に、藤堂は目を疑った。

スポーツカーの前にいるのは、陣内の母親である。

間違いなかった。

毎日のように見ている友達の母親の顔を見間違えるはずがない。

「――あの人、誰…?」

続けて陣内が小さな声で呟いた。

彼女の前にいるのは、見知らぬ男だった。

年齢からして見ると、父親よりも年下である。

母親は彼と笑顔で楽しそうに話をしていた。

恋する乙女のように頬を紅く染めながら話をする母親は、家で見せる顔とは別人のように思えた。

「あっ」

気づいた時には、母親は男と一緒にスポーツカーに乗っていた。
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