Monsoon Town
母親は特に嫌がった素振りを見せず、当たり前のように男と一緒に乗ったのだ。

その一部始終を全て目撃していた陣内と藤堂に気づかなかったと言うように、スポーツカーは発車した。

スポーツカーが去って行っても、2人の視線はそこに釘づけになっていた。

学校は休んだ。

「何だったんだろうな」

呟くように、藤堂が言った。

セミがうるさい小さな公園は、暑さのせいか誰もいなかった。

日陰になっているベンチに腰を下ろすと、さっきまでの光景を振り返った。

母親は若い男と一緒に、楽しそうに話ながら笑っていた。

別人と言っても過言ではないくらいだった。

「――知らない…」

ポツリと、陣内が呟いた。
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