恋して、チェリー


いつだって、そう。

そうやってあたしの心をいとも簡単にさらっていって。



「来てみたら、本当に泣いてるし」

そんな優しい声色から、ギクシャクした感じは感じられなくて。


嘘泣きでもいいから、今は王子の胸でいっぱい泣きたいと思った。



「――…勝負、」

「ああ。受けんだろ?」

あたしの言葉を遮って、クスリと笑う。


「学校中の噂になってるっつの」

と、さらに続けた。


それじゃあきっと、胡桃ちゃんが自分が王子の初カノって言ったことも。



「ひとつ聞いていい?」

「なに?」

その腕に、あたしを閉じ込めたまま。



「本気で好きだった?」

胡桃ちゃんの、こと――。



「――…ああ」


自分で聞いたクセ、に。

覚悟は出来てた、クセに。

“答え”なんて、分かってたクセに。




心がぐしゃり、と押し潰される感覚。



どうか、どうか……あたしが逃げ出さないように、その温かい腕の中に閉じ込めておいて。


逃げ出したく、……なってしまうから。


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