恋して、チェリー
「お姉さん、結婚したの?」
――この香水付けて。
パッと降ってきた疑問を、素直に口にする。
するとお姉さんは、
大きな目をさらに大きくさせて、マスカラがバッチリ塗られたまつげをシパシパさせた。
「そうよ」
その笑顔から、幸せがにじみ出てる。
いいなぁ、結婚かぁ。
女の子の永遠の憧れだよね。
――彼と、永遠の愛を。
今のあたしは、恭一くんとのそんな未来は描けない。
いくら想像してみても、それはあやふやなまま。
「今の人って、あんまりそういうの知らないのよね」
――6月の花嫁の伝説。
きっとあたしの考えが古いのね。
その言葉から、この香水があまり売れなかったことがなんとなく分かってしまった。
「あ、そうだ。ちょっと待っててね!」
そう言って奥の扉の向こうへと吸い込まれるように消えて行った。
改めてお店を見渡すと、本当にあたしなんて場違いなお店だと思い知らされる。
香水の専門のお店じゃなかったみたい。
メイク道具や化粧品、高そうな髪飾りが黒いテーブルの上にきちんと並べられている。