恋して、チェリー
「ちょっと……、ひとりにさせて」
あの秘密の場所で――街を見下ろす風景を、独り占めするのも悪くない。
肩まで伸びたポニーテールを、風がイタズラに揺らしてく。
知らず知らずのうちに擦り傷だらけだった心が、風にしみてズキリと痛んだ。
「ち~ぇりちゃんっ♪」
今、1番聞きたくない声がすぐ後ろで聞こえる。
「まだね、言ってなかったことがあるの」
――やめて、やめて、やめて。
また自慢? ノロケ話?
そんなの、もうたくさんだよ。
あたしのハートはもう限界なの。
今、こんなに悩んで……傷付いてる時に聞きたくない。
「もう……やめてっ!」
この場所に、入って来ないで。
胡桃ちゃんが立ち入り禁止の柵を越える前に、あたしが飛び出す。
耳を塞いだ……はず、なのに。
彼女の声はなぜかクリアに聞こえてきた。