恋して、チェリー


「どういう……、こと?」

無表情のままあたしを見下ろす彼を、初めて見る。


なんでそんな顔してるの……?


胡桃ちゃんは満足そうな顔して。


じゃあなんで、彼はこんなに無表情なの――?



フラれることは、分かってた。


彼がまた彼女を好きになっても仕方がないと思った。

初恋はそれだけ特別なものだって……あたしはそれを越えられなかったんだって。


そう、思ったから……。




「別れよう」

どこまでも残酷な声が、薄く開かれた唇からこぼれ落ちた。





――その言葉を聞いた瞬間。


いつか聞こえたあのサイレンが、けたたましく響き渡る。



――「再生、不可です」

……ああ。

あの言葉は未来に向けられていたんだ。


「行こ?」

真っ黒になってしまった視界の中彼女の媚びた声。

なんでいつも、これだけはクリアに聞こえるの。



本当に悲しい時って涙も出ないんだね。

ある一点に定まったままの視線も動かすことが出来ず。

足だけだったはずが、今じゃ体中に鉛が付けられてるみたい。


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