恋して、チェリー


――そして迎えた登校日。


午前中で終わる予定だから、その後はキナと比奈と海に行く約束。


バックにお気に入りの水着を忍ばせて久しぶりに学校へと向かう。



けれど、あの日から沈んだままの気持ちはそのままで。

前に踏み出す足は、やっぱりどこか重い。



「早く来ちゃった」

懐かしい教室の匂い。

窓を開けて新しい空気を入れるとふとあの場所が恋しくなった。



まだ早いから、大丈夫だよね?



――タンタン、タン

階段を爽快に降りていく。

非常階段のドアが、遥か向こうに見えた時だった。



「っ……、」

ほんの、一瞬なのに。

忘れていた、はずなのに。


どうして今さら、こんなにもあたしの気持ちを揺るがすの。


本当は小さくて頼りなくて――、震えていたんだと知った背中。

風にフワリとなびく黒い髪。




恭、一くん……。


大好きだった背中は、一瞬にしてドアの向こうに消えていった。


きっと今は、“彼”と“彼女”の秘密の場所なんだろう。


ズキズキと痛み出すハート。



「……」

胡桃ちゃんはいる、のかな――?

もしかしたら、いないかもしれない。


心に小さく芽生えた気持ち。




「……い、…たい…」

――逢いたい……。


許されない、そんなこと……分かってるもん。

もう、彼とあたしは“他人”なんだから。


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