恋して、チェリー


それでも体は正直で。


ドアの数歩前まで、歩みを進めていた。

固く冷たい鉄の塊に、指先が触れた時。



「海行かない?」

楽しそうな声が、聞こえてきた。


「絶好の海日和だよ!」

きっとふたりで景色を見下ろしているんだろうな。


今さら、あたしが会うなんて許されない……のに。

バチが当たったんだ。



この重たいドアの向こう。

向こう側に広がる世界は、決してあたしが立ち入ることなんて許されない。


恋人同士の、ふたりだけの世界。



「……っ!」

ふと、立ち上がった気配と足音が耳に届いて。

あたしは弾かれたように、階段の影に隠れた。



「じゃあ、1時に駅ね!」

海、行くんだ。

なんて楽しそうな彼女の声。


今日キナと比奈と遊びに行く場所は、別の所しよう……。



ふたりが見えなくなったのを確認して、やっぱりあたしはドアを開ける。


< 165 / 202 >

この作品をシェア

pagetop