恋して、チェリー
それでも体は正直で。
ドアの数歩前まで、歩みを進めていた。
固く冷たい鉄の塊に、指先が触れた時。
「海行かない?」
楽しそうな声が、聞こえてきた。
「絶好の海日和だよ!」
きっとふたりで景色を見下ろしているんだろうな。
今さら、あたしが会うなんて許されない……のに。
バチが当たったんだ。
この重たいドアの向こう。
向こう側に広がる世界は、決してあたしが立ち入ることなんて許されない。
恋人同士の、ふたりだけの世界。
「……っ!」
ふと、立ち上がった気配と足音が耳に届いて。
あたしは弾かれたように、階段の影に隠れた。
「じゃあ、1時に駅ね!」
海、行くんだ。
なんて楽しそうな彼女の声。
今日キナと比奈と遊びに行く場所は、別の所しよう……。
ふたりが見えなくなったのを確認して、やっぱりあたしはドアを開ける。