恋して、チェリー


「何してたの?」

後ろに立つ比奈が、小声で話しかけてくる。


「ん、ちょっと」

濁してみると。


「あの場所ね」

くすっと漏らした声が聞こえる。


バレちゃったか……っ。



「持って来ちゃった……」

ポケットの中には、琥珀の月。


あのまま落とされたままなんて、見過ごすことは出来なくて。




「えーっ! 何でぇ?」

集会が終わって、体育館に生徒がまばらになって来た中、話題を切り出す。


「さっきたまたま聞いちゃったの……」

事情を話すと、ぶぅ、と比奈が唇を尖らした。


「ま、しょうがないよね」

キナは納得してくれたみたいなんだけど。

相当楽しみにしていたらしく、比奈はなかなか食い下がらない。


「海って言ったってたくさんあるじゃん」

――カブるとは限らないよ?


「まぁまぁ」

そう言って比奈をなだめてくれるキナ。


「あたしはいいから。ふたりで行っておいでよ」

あたしのせいで、ふたりに迷惑かけたくないし。

夏休みは、思いっきり楽しんで欲しい。


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