恋して、チェリー
「……っ、」
いつからこんなに臆病になったんだろう。
踏み出すことも、立ち去ることも出来ないなんて。
2本の足が、力なく震える。
胸の痛みが蘇ってくる。
思うように出来ない呼吸に、息苦しさ。
止まらない涙――。
「ダメ、だ……」
恭一くんを“過去”にするには、まだまだ時間が足りない。
まるで時が止まったように、あたしはその場に息を潜めて立ちすくむことしか出来なかった。
どのくらい、そうしてただろう。
荒々しくドアが開かれた音に、思わず肩がビクッと震える。
「…で……ぇんだよ…」
小さなつぶやき声。
イラだったその背中。
“何でねぇんだよ”
あたしには、そう聞こえた。
もしかして――“これ”は恭一くんが落としたものなの?
ポケットの中のものを、握りしめる。
――…ガンッ!
鉄のドアを拳で殴りつけると、彼は去っていった。
あの日のように、表情を見ることは出来ないまま――。